雑記

第152回芥川賞候補その3 - 高橋弘希「指の骨」

黄色い街道がどこまでも伸びていた。 その道がどこへ繋がっているのか、私は知らない。サラモウアには繋がっていないのかもしれない。しかしいずれにせよ、我々はその道を歩くしかなかった。 尤も、私はもう歩くことを止めていた。街道沿いの、一本の欅に似…

第152回芥川賞候補その2 - 上田岳弘「惑星」

Title From 2014/4/7 To 幾つもの扉が叩かれる。東京代々木の先端医療を施す総合病院の、イスタンブールの壮麗な寺院脇にひっそり建つ朽ちかけたアパートの、あるいはカリフォルニア州サンノゼのメガベンチャー企業の社長室において。それはまぎれもない契機…

第152回芥川賞候補その1 - 小野正嗣「九年前の祈り」

渡辺ミツさんのところの息子さんが病気らしい。母がそう言うのが聞こえたとき、さっきから喋り続ける母を無視して携帯の画面を見るともなく眺めていた安藤さなえを包んだのは、柔らかい雨のような懐かしさだった。 「みっちゃん姉!」とさなえはささやいた。…

指示の病

最近、気になっているのが、日本語における「指示の病」の流行だ。もちろん、これは「不治の病」に引っ掛けた自作の造語だが、この病が蔓延していることを感じることが多い。 では、「指示の病」とは何か。具体的な例を上げてみよう。まず、最近の本を一冊手…

イエス・キリストは実在したのか? - レザー・アスラン

以前 レザー・アスラン博士の記事を書いたが、昨年7月に翻訳書が出版されていたので、紹介しておく。 革命のエネルギーに満ちていた一世紀のパレスチナ 「ナザレのイエス」と呼ばれた人物について、何か一つでも知ることは奇跡に近い。世も終わりだと叫びな…

明けましておめでとうございます

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

そんな櫻井和寿の詞癖

アルバムも発表しないのにツアーを組むという不思議な活動を繰り広げるMr.Childrenが、最近、小林武史のプロデュースから離れると話題になっている。先だって、彼らの出演する回の『SONGS』(NHK)が、地震により延期になっていたが、昨日ようやく放送された…

絶対避けるべき名前の付け方

我が子に名前をつける際、絶対やってはいけないこと 占い師(鑑定師)に命名を依頼する 「人生は自分の力で切り開かなくてもよい」というメッセージを子に与える※親の人生も同じスタンスであることが透けて見える 責任放棄の姿勢を子どもに教えている※親の人…

【話の肖像画】 作家・西村京太郎

産経新聞の【話の肖像画】に作家の西村京太郎が登場した。 【話の肖像画】作家・西村京太郎(83)(1) 【話の肖像画】作家・西村京太郎(83)(2) 【話の肖像画】作家・西村京太郎(83)(3) 【話の肖像画】作家・西村京太郎(83)(4) 【話…

ペテロの葬列

宮部みゆきの『ペテロの葬列』がドラマ化され、今日から放送がスタートする。http://www.tbs.co.jp/petero2014/本作は「杉村三郎シリーズ」の第2弾。巨大企業グループの広報室に勤める平凡なサラリーマン杉村三郎が今回も事件に巻き込まれてゆく。 第1弾の『…

インドは変わる!?

週刊誌『東洋経済』で「日本企業にも好機! インドの地殻が動いた」なる連載が始まった。著者は帝羽 ニルマラ 純子(ていわ にるまら じゅんこ)女史である。インドビジネスアドバイザーの肩書を持つ。 第1回目は「「3度目の独立」を果たし、前進するインド」…

愛する娘は、バケモノでした。

中島哲也監督の新作『渇き。』。 本作は6月27日に封切られ、賛否両論を巻き起こしている。 その原因は、R15+指定とは思えないほどのバイオレンス描写だ。 「今まで観た映画で最悪。自分の脳から消し去りたい」「気持ち悪くなったし気分が悪くなった」とい…

第151回芥川賞候補その5 - 横山悠太「吾輩ハ猫ニナル」

序 ある日わたくしの数少ない友人である馬さんが家へひょっくり遣ってきて、自分の今の日本語の水準にして辞書をほとんど使わなくとも読み進められるような小説があるならば、是非とも紹介してほしいと云うのでした。近来の日本の小説は片仮名で表された外来…

第151回芥川賞候補その4 - 羽田圭介「メタモルフォシス」

一人の愛好家が死んだ。 モーニングセットを食べるついでに喫茶店の棚から手に取った実話系週刊誌を読んでいたサトウは、スツールに座ったまま姿勢を正し、当該記事を読み直す。「背中にハローキティの刺青!? 多摩川支流で見つかった身元不明男性遺体に囁か…

第151回芥川賞候補その3 - 柴崎友香「春の庭」

二階のベランダから女が頭を突き出し、なにかを見ている。ベランダの手すりに両手を置き、首を伸ばした姿勢を保っていた。 太郎は、窓を閉めようとした手を止めて見ていたが、女はちっとも動かない。黒縁眼鏡に光が反射して視線の行方は正確にはわからないが…

第151回芥川賞候補その2 - 小林エリカ「マダム・キュリーと朝食を」

私たちがスフレの中心温度より、惑星や太陽の中心温度のほうをよく知っているというのは奇妙なことである。――ニコラ・クルティ 母たちが街を乗っ取ることに成功したその年に、私はこの世に生まれました。ある日、人間たちは遂に、私たちにキッチンを、寝室を…

第151回芥川賞候補その1 - 戌井昭人「どろにやいと」

わたしは、お灸を売りながら各地を歩きまわっている行商人です。お灸は「天祐子霊草麻王」という名称で、父が開発しました。もぐさの葉を主に、ニンニク、ショウガ、木の根っこ、菊の葉を調合して作っています。 天祐子霊草麻王をツボに据えて火をつければ、…

今最も注目される現役心理学者30人(Best Masters in Psychology)

Martin Seligman マーティン・セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』『世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』『学習性無力感―パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』『うつ病の行動学―学習性絶望感とは何か…

あけましておめでとうございます。

15歳の少年、膵臓がん発見の画期的方法を開発 たった5分、3セントで検査

15歳にして膵臓がん発見の画期的な方法を開発したジャック・アンドレイカ(Jack Andraka)君のTEDをご覧になってはいかがだろうか。* 日本語字幕の表示方法再生ボタン [三角のボタン] をクリックする右下の「CC」をクリックする選択リストから「Japanese」を…

汚染水の真実

花田紀凱氏が、今週の【花田紀凱の週刊誌ウォッチング】(産経新聞)において「汚染水の真実」(『ニューズウィーク日本版』(11・12)特集記事)を読んでみてはどうだろうかと薦めている。 我々は連日、福島原発の汚染水関連の報道に接しているが、繰り…

ドライブ・マイ・カー

村上春樹が9日発売の文藝春秋12月号で新作短編を発表するとのこと。作品の題名は「ドライブ・マイ・カー」でありビートルズの曲にちなんだものだ。副題は「女のいない男たち」……なんだか気になる感じの題だ。 これまで女性が運転する車に何度も乗ったが、家…

Samsa In Love - Haruki Murakami

先月刊行の翻訳短篇集『恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES』に収められた村上春樹の短編「恋するザムザ」が米雑誌 The New Yorker (October 28, 2013) に掲載された。訳者はカナダ人の Ted Goossen 氏(ヨーク大学教授[日本文学・文化])。The New Yorke…

PLUTOCRATS(グローバル・スーパーリッチ: 超格差の時代)

J-CAST の連載「霞ヶ関官僚が読む本」の記事「グローバル特権階級の実態 その「過大な影響力」とは」がよく読まれているようだけれども、同じ PLUTOCRATS(クリスティア・フリーランド著)を扱った記事であれば、TED の講演をまとめたこちらの記事(「世界で…

英国王立協会2013年科学書賞ショートリスト

英国王立協会は、2013年の科学書賞 (Society Prizes for Science Books) 候補作品(ショートリスト)を25日発表した。 過去の受賞作には『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳)や『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライ…

発がん成分「コカミドDEA」

アメリカでは、発癌性物質「コカミドDEA (Cocamide DEA)」(=ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド)を含むにも拘らず警告表示をしていない廉で、シャンプー製造会社を相手取って、環境衛生センター CEH (Center for Environmental Health) が訴訟を起こしていま…

2013年ブッカー賞ショートリスト発表

2013年ブッカー賞のショートリスト6作品が発表された。 We Need New Names by NoViolet Bulawayo (Chatto & Windus)We Need New Names (English Edition)作者: NoViolet Bulawayo出版社/メーカー: Vintage Digital発売日: 2013/06/06メディア: Kindle版この…

火によって - ターハル・ベン=ジェルーン

今週 (SEPT. 16, 2013) の The New Yoker 誌の Fiction 欄に登場したのは、By Fire だ。ターハル・ベン=ジェルーン Tahar Ben Jelloun 氏が2011年6月にガリマール社 Gallimard から出した Par le Feu の英語訳である。この本は「アラブの春」と呼ばれた一連…

ジョージ・ペレケーノスが選ぶエルモア・レナード作品ベスト5

『ゲット・ショーティ』や『ジャッキー・ブラウン(原作:ラム・パンチ)』などの著書で知られる米作家エルモア・レナードが先月20日に亡くなったことはメディアで既に報道されているのでご存知のことだろう。ただ、氏の作品を一度も読んだことがない読者も…

巨匠スティーヴン・キングが薦める80冊

先月出版された巨匠 Stephen King(スティーヴン・キング)の『書くことについて (小学館文庫)』の巻末には、2001年〜2009年に著者が読んだ本のベスト80(作家ベース)が収録されている。その一覧を掲載する。 Abrahams, Peter ピーター・エイブラハムズ (19…