放浪ニートが、340億社長になった!- 中村繁夫
ロシアの地面の下には、
世界中が欲しがるお宝が眠っている
◎市場から姿を消した金貨=レアメタルとは?
僕の会社は、日本で1番レアメタルを輸入している。
レアメタルとは、産出量が少ない「希少な金属」の総称だ。産出国は中国、ロシア、中央アジア、南アフリカなどに偏っている。
レアメタルは、日本の製造業にとってなくてはならない。ハイブリッドカーや各種ハイテク商品は、レアメタルなしにはつくれない。
たとえば、携帯電話が小型化して薄くなったのも、レアメタルのおかげだ。
マナーモードの振動には、タングステンというレアメタルが欠かせない。タングステンは鉄の2・5倍の重さがある。
超小型モーターの先端についたタングステンのおもりが回転し、マナーモードの振動をつくり出す。もしタングステンの代わりに鉄を使うと、大きな鉄のかたまりが必要になり、必然的に携帯も大きくなる。
液晶画面には、インジウムというレアメタルが使われている。
本体にはアンチモン、マイクスピーカーにはネオジム、電池にはコバルト、コンデンサーにはタンタルという具合に、携帯電話には全部で10種類以上のレアメタルが使われている。
薄型テレビのパネルには、インジウムが使われている。テレビ画面では、小さな点が発光したり消えたりしているが、この電気を通す透明な膜をつくるのにインジウムは欠かせない。
自動車にもレアメタルが欠かせない。車体にニオプを使用すると、流線型に加工しやすくなるし、またネオジムはハイブリッドカーになくてはならないものだ。ネオジムがないと、トヨタのプリウスもホンダのインサイトもつくれない。
最先端の製品を多数生産する日本は、世界中のレアメタルの半分近くを消費する「世界最大のレアメタル消費国」だ。しかし、日本にはレアメタルがない。
日本は、電子材料技術ではずば抜けた実力をもっているにもかかわらず、原料となる貴重なレアメタル資源を諸外国、とりわけ中国に依存してきた。
しかし、そのレアメタルが市場からなくなってしまった。
中国はこれまでレアメタルを輸出してきたが、国内でハイテク産業が成長し、国内で消費するようになった。
すると、中国はレアメタルの輸出をストップし、さらに輸入を始めた。
中国の金属メーカー、金属系商社がレアメタルを確保しようとして、世界中で活発に動き始めた。アフリカで精錬工場を建てたり、南米の鉱山開発に資本参加している。
中国は、世界中のレアメタルを独占し始めたのだ。
市場からレアメタルが姿を消し、価格は日々高騰している。
◎"1000分の3"を求め、世界のはてまで
僕は世界中でレアメタル鉱石を探し、買いつける山師だ。
産業立国ニッポンのポジションを守るために、立ち上がった。現代の山師だ。
山師という言葉を辞書で引くと、「鉱山の発掘や鉱脈の発見・鑑定をする人」とある。
ただし、鉱山開発は大きなギャンブルだ。
鉱山開発は「"1000分の3"の世界」と言われ、成功確率は極めて低い。資金協力者と顧客を見つけ、リスクを最小限に抑えながら、命がけで勝負する。そこにロマンを感じる人間が、本物の山師だ。
2004年1月、僕は、日本初のレアメタル専門商社アドバンスト・マテリアル・ジャパン(以下、AMJ)を立ち上げた。
「レアメタルでひと旗揚げたる!」
という思いで、これまで独自の方法で日本にレアメタルを供給してきた。
1つは、中国企業の懐に飛び込み、レアメタルを確保する。
もう1つは、新しい仕入れルートの開拓。
レアメタルは、中国以外にも世界の各地域にある。そうした地域を放浪し、鉱山開発をするのだ。たとえば、ダイヤモンドに次ぐ硬度と耐熱性をもつ、タングステンというレアメタルがある。
工作機械の刃などに利用され、これを使えば、ほとんどの金属を鋭く削り取ることができる。
自動車をつくるときには、タングステンでつくられたドリルの刃が不可欠だ。タングステンがないと、世界トップの自動車大国ニッポンといえども自動車がつくれない。
いま、世界中のタングステンの9割を中国が押さえている。タングステン資源の枯渇、供給不安が中国の政策によってもたらされているのだ。
AMJは、日本国内に輸入されるタングステンの30%以上を扱っている。
日本はその多くを中国から輸入してきたが、レアメタル価格が高騰し、トレーダーも仕入れに悪戦苦闘するようになった。
◎地下150メートルを進み、"ブルーダイヤ"を発見!
「もう中国に頼ってもラチがあかんぞ!」
僕は中国からのレアメタルの輸入に限界を感じ、ほかの国から輸入することを考えた。
狙いはロシアの極東、沿海州にあるプリモルスク鉱山だった。鉱山そのものを押さえるのが目的だ。
これまで日本の商社は、誰かがもっている鉱山から鉱石を買ってきた。自分で鉱山を所有するという発想は、あまりなかった。
「ロシアの鉱山の地中深くには、世界中が欲しがっている宝が埋まってるんや」
ロシアは、ビジネスパートナーとして今後、最も大きな可能性のある国だ。
まだ国土の2割が未開発で、数億トンのタングステンが眠っていると言われている。
この山を何とか押さえたい。
現地に行き、エレベータで地下採掘現場へと向かった。
地下150メートルにある坑道を進む。真っ暗でぬかるんだ坑道を、懐中電灯を頼りに進む。
「これはすごいぞ!」
坑道の外壁に紫外線を当てると、まるで銀河のように青く細かな光が無数に浮かび上がる。
青く発色するのが、タングステンの特徴だ。地元の人がタングステンのことを「ブルーダイヤモンド」と呼ぶのはこのためだ。
◎行くところに中国人あり!
40年弱続いた日本企業との契約をひっくりかえされた
僕は、鉱山会社の社長と交渉した。
社長は、「鉱山開発には3億ドルほどかかる」と、言う。「現段階で言えることは、鉱山開発に必要な資金の半分を我々が負担することができます。3億ドル必要なら、1億5000万ドルを我々が負担します」
「なるほど。で、ナカムラさんの条件は?」
「日本に優先的にタングステンを出してください」
すると、鉱山会社の社長は驚くべきことを言った。
「タングステンを売った利益の配分はロシア側7、日本側3でいいですか?」
「何やて。7対3?」
日本側が鉱山の開発資金の半分を拠出すると言っているのに、利益は3割しか渡さないというのか!
「このおっさん、えらい強気やな」
強気の態度の裏には中国人がいた。
すでに複数の中国企業がこの鉱山に狙いをつけ、多額の資金提供を申し出ていたのである。
「くそ、また中国か!」
ここ数年、レアメタル取引の交渉をしていると、中国企業と競合することが多い。言葉は悪いが、横取りされるケースも目立つ。
たとえば、オーストラリアにかつてウェスタン・マイニング社(現在はBHPビリトン社が買収)があった。レアメタル鉱山を多数所有する非鉄メジャーの一角だ。
この会社は、1967〜2004年まで住友金属鉱山と契約していた。10年ごとに契約を更新し続け、40年弱にわたり良好な関係を保っていた。放浪ニートが、340億社長になった!―世界90か国で学んだ人生を楽しむ仕事術
- 作者: 中村繁夫
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2009/09/18
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目次
プロローグ “放浪ニート”だった僕が、340億社長になった!
◎“宝の山”を目指して、4000キロの旅
◎ゲリラ交渉で、レアメタルを買い占める
◎「現場・現物・現実」交渉で、お宝をゲット!
◎22歳からスタートした、僕の“放浪ニート”人生
第1章 “1000分の3”(センミツ)の世界で、お宝を見つけるんや!
ロシアの地面の下には、世界中が欲しがるお宝が眠っている
◎市場から姿を消した金貨=レアメタルとは?
◎“1000分の3”を求め、世界のはてまで
◎地下150メートルを進み、“ブルーダイヤ”を発見!
◎行くところに中国人あり! 40年弱続いた日本企業との契約をひっくりかえされた
◎アマゾンのジャングルで土族に遭遇! ものすごい殺気を感じた
◎日本の商社で初! ロシアのタングステン鉱山をゲット運命は自分で切り開け
◎54歳でリストラ勧告! 岐路に立ったら困難な道を選べ
◎自分が決心しなければ、運命は変わらない初めは何でもいい! 些細な自分の思いつきが人生を変える
◎大ボラを吹いてしまえば、何とかなるもんや
◎「大風呂敷で変人の中村」と言われても、口に出し続けたこと
◎周囲からの「海外に行ってどうするの?」との忠告も、耳に入らず
◎『逃亡者』を見て、「何とかやっていける」と根拠のない自信が……どんな天才でも、どんなアホでも、時間だけはみな平等や
◎1日を4つに分ける
◎世界中どこにいようが、朝5時起床! 中村式1日6時間分割スケジュール法
◎移動時間は睡眠にあて、起きたらすぐ行動
第2章 “日本のユダヤ人”が教える世界最強の交渉術
「世界ナンバーワンの交渉力」をもつ男との白熱バトル
◎“日本のユダヤ人”、世界の商人と他流試合で交渉力を磨く
◎「世界で最もずるい商人」とのビジネス“9回のYES”で相手を術中にハメ、“最後1回のNO”は絶対に譲らない
◎世界最強交渉人・ソグド人との初対面
◎「躁うつ型気質」は、矛盾を突くと説得しやすい
◎「分裂型気質」には、常に余裕をもたせてあげる
◎「粘着型気質」には、理路整然とした解決案を示す
◎相手が9回連続の「YES」! 何かおかしいな
◎「YES」の雰囲気の中で、いかに「NO」を言うか
◎「世界最強交渉人」の最大の強み“放浪ニート”時代に培った経験と勘で、交渉の場を自在にあやつる
◎赤ん坊のときから、1度つかんだ金貨は絶対に離さない
◎交渉とは、民族同士の伝統との戦い
◎“放浪ニート”で、世渡りの経験と勘を養う秘密軍事都市で、チタンを独り占めにする
◎大の中国好きが、中国嫌いになった理由
◎危険地帯にこそ、ビジネスチャンスあり
◎日本人初、秘密軍事都市へ! 工場大爆発で帰国命令が出るも、無視してとどまる
◎まずはトップを落とすのが、交渉のABC100円のチョコレートとクッキーが、貴重な情報を運んでくる
◎中村式「日本人であることを活かした」交渉時の秘密兵器
◎中央アジアビジネスで、商才よりも大切なこと
第3章 行動と経験だけが、洞察力を高めてくれる
海外放浪に必要なのは、カネより“ODA”や
◎本社の判断を仰がず、75億円の取引を現場で即決!
◎カネよりも必要な“ODA”(押し・度胸・遊び)
◎100億円の大仕事がやってきた
◎アマゾンのジャングルで、真夜中に白ヘビと格闘言葉の壁は、ほんの少しの勇気があれば、すぐに越えられる
◎26歳で入社後3年は、管理部門で腐りかけていた
◎とにかく1つでも2つでも、商売をもって帰りたいと中国をかけまわる
◎初の海外出張で、「できた」という自信をつける
◎初クレームに涙し、商売の原点に気づくとっとと挫折したほうがええねん
◎心が折れそうになったら、さっさと自分から折る
◎傷ついて、恥かいて、女を愛せ失敗したら、その倍稼げばええねん
◎石油業者間転売で、1億8000万円丸損! 辞表を用意
◎2人の“男気”に、九死に一生を得る
◎大手3大商社から執拗な嫌がらせを受けながらも、くじけず前へ
◎意味もなく涙が出てきたこと
第4章 商売のコツは、“放浪ニート”で身につけた
他国の文化もわからんやつが負けるのは当然
◎現地人のお宅に、ずうずうしくあがり込む
◎現地人の気持ちをつかむには、その国の民謡が1番
◎本当の旅とは、心を自由に解き放つこと机の上であれこれ考えても、たいてい失敗する
◎情報ソースは、「現場・現物・現実」の3現主義
◎海外に出ることで、自分の価値観が大きく変わった
◎大規模牧場主になる人もいれば、数年で無一文になる人も
◎ブラジルの成功者のかげで
◎「母親が目をくり抜き、父親が手を切断する」インドの衝撃
◎水も飲まない断食に挑戦! ふわふわと空中に浮かぶような感覚を味わう
第5章 大きな船に乗るよりも、俺と一緒に小さな海賊船で夢を見ないか
チームをつくるなら、「1人1芸」の多能集団
◎スピード、個性、多様性、専門性の4点
◎“アマゾン8人衆”は、「自分探し」の旅をしている夢想家
◎「南極越冬隊」のような多様性が大事米DDT工場で実感した「外国で働くということ」
◎世界中で数々のバイトを転々、死にかけたことも
◎鉄条網を掘って地下道から潜入! 米軍内で命がけのカブトムシ捕獲作戦
◎体重50キロの男が、50キロのDDT袋と格闘
◎辛い現場で初めて「友の裏切り」を経験! 心が折れる
◎ビザなし、コネなし、学歴なし、宿なし、体力なし、カネなしの“ロクデナシ”成績ビリは、毎年クビになる!
◎なぜAMJを辞めると、社員は幸せになるのか
◎ハービー・ハンコックとの再会
◎“放浪ニート3人組”ラーメンだけの3日間アメリカ横断旅行
◎1日3回、同じチキンラーメンで空腹を癒す
◎3日でアメリカ横断を達成! 1人27袋、3人で81袋を完食
◎“柔軟・控えめ・パワー”の「上善水のごとし」が、放浪の醍醐味「右手にソロバン、左手にロマン、背中にガマン」から、「ひっそり、こっそり、しっかりと」へ
◎「最初の5年、真ん中の5年、終わりの5年」の15年を1つの区切りに
◎これから必要なのは3つ! 「柔軟性」「多様性」「比較優位」
◎全員が自分の能力以上の目標をもち、忙しくなろう
◎ひっそり、こっそり、しっかりと
エピローグ さあ、最初の一歩を踏み出そう
◎日々是決戦!
◎初めの一歩を踏み出そう