外務省犯罪黒書 - 佐藤優

週刊誌のスキャンダル隠蔽のために
 私はかつて外務官僚の特権を守ったり、マスコミに対して外務省のスキャンダルを隠蔽するような作業に手を貸したこともある。
 いまにして思えば反省すべきことであり、心から後悔もしている。反省の意味を込めて、本書では、知りうる限りの実態を明らかにしていくつもりだ。
 その手はじめとして、外務省の機密費に関するスキャンダル潰しについて記していきたい。
 平成九年(一九九七年)二月下旬のこと。ある週刊誌が「外務省高官の『二億円』着服疑惑」の特集記事を大きく報じた。
 疑惑の中身は、「外務省の若手課長の中でもエース格で、将来の事務次官候補とみられている総合外交政務局のS課長」が外務省の外交機密費を私的に着服した、というものだった。
 この疑惑が、その後、平成一三年(二〇〇一年)初頭に発覚する外務省要人外国訪問支援室・松尾克俊室長による外交機密費流用事件を引き起こし、外務省を大きく揺るがすことになるとは誰も考えていなかった。かくいう私もその一人だ。
 一般に、外務官僚による外交機密費流用事件は「松尾事件」が端緒と理解されているが、本当の入り口はこの「S課長」による流用事件である。この事件で外務省を蝕むウミをすべて出すことができれば松尾事件が起こることもなく、外務省も本来の姿に戻ることができたはずだ。
 しかし、私はここで一つの「過ち」を犯してしまった。この「過ち」によって、外務省は内側から腐りはじめ、いまや日本の外交を危うくするところまで落ちてしまった。私は贖罪の意味からも、この事件の真相を明らかにしようと考えている。
 もしかしたら遅きに失したかもしれない。しかし、すべてを明らかにすることで外務省の闇に光が当たれば、必ずや出口も見えてくるのではないだろうか。
 さて、「外務省高官の『二億円』着服疑惑」の記事についてだが、このなかで外務省高官の実名は伏せられ、イニシャルで表記されていた。概略は、「外務省総合外交政務局のS課長は、斉藤邦彦事務次官(現FEC国際親善協会理事長)の秘書官だった時期に、外務省の報償費(機密費)から二億円を着服し、料亭などの飲み食いに浪費していた」というもの。
 ここで明らかにしよう。S課長とは杉山晋輔中東アフリカ局参事官(現同局審議官)である。

(中略)

 平成九年(一九九七年)二月、疑惑が発覚する数日前のことだった。東郷氏は血相を変えて議員会館の私の部屋に入ってきた。
「たいへんです。困ったことになりました」
 アゴの下の脂肪の塊を震わせながら、ただならぬ様子の東郷氏に「何だ?」と聞いた。
「週刊誌のAが外務省のスキャンダルを書きます。この話が表に出ると、たいへんなことになります。仕事ができなくなります。とりあえずこちらのルートでAに当たりますが、上手くいかないときは、先生のお力を貸していただくことになります。よろしくお願いします」
 このとき東郷氏がいっていた週刊誌の記事とは、外務官僚が機密費を私的に流用していたというスキャンダルだった。その日は結局それで終わったが、翌日も東郷氏はやってきた。ただし、打って変わって上機嫌だった。

「先生、上手くいきました」
 話を聞いてみると、週刊誌側と「実名と顔写真を出さない」ことで手を打ち、イニシャルで済んだという。記事に書かれていることの事実関係を認めることと引き換えに、問題の外務官僚の実名公表を抑えることができたというのだった。
「取引が上手くいって、本人と関係者の名前は出ません。外務省としてはひと安心です」

(中略)

 杉山氏は、この外務省機密費から流用した二億円ものカネを、ドブに捨てるがごとく浪費していた。記事のなかでその生々しい実態が明らかにされている。
 たとえば、ホテルニューオータニで支払ったお子様ランチの請求書まで機密費に回していたというのはスケールの小さい話で、東京・向島の料亭や銀座のクラブでの豪遊を繰り返していたという。
 ある料亭では、裸になって肛門にろうそくを立て、火をつけて座敷中を這い回るという「ろうそく遊び」なる下劣な座敷遊びに興じていたというのだからあきれてものがいえない。
 私自身、「ろうそく遊び」を自分の目で見たことはないが、「幼児プレー」をする外務官僚の姿を目撃したことがあるので、「ろうそく遊び」があっても少しも不思議ではないと思った。
 さらに、タクシーに乗り放題だったことから、タクシー代よりは安上がりだといって専属公用車を支給されていた。さすがに「次官付とはいえ秘書官が専属公用車を使うとは何事か」と問題になったというが、まさに常識を超えたカネ遣いといえる。
 機密費の流用はこれだけではなかった。杉山氏は他の部署の幹部の飲み食いまで立て替え、部局を超えた「人脈作り」に励んでいたという。
 この週刊誌によると、杉山氏に飲み食い代をツケ回していたのは「駐独大使館のM参事官」「駐英大使館のH参事官」とあるが、それぞれの実名は、森元誠二駐ドイツ公使、原田親仁駐イギリス公使(現欧州局長)である。


外務省犯罪黒書

外務省犯罪黒書

はじめに
1 隠蔽される不祥事
本書の意義/飲酒運転で人を殺しても「停職1ヵ月」→後に大使に/外務省の犯罪を暴くのに有効な「質問主意書」/筆者が関与した揉み消し工作/なぜ日本外交は八方塞がりの状況に陥ったのか/猥褻事件で外務官僚が懲戒免職になる事例は「少ない」/国益のために働いたエージェントを冷酷に切り捨てる外務省/1枚のDVDよりも軽い「人の命」/「赤いTシャツ」が賞品になった閉鎖空間の外務省
2 公金にタカる官僚たち
本稿に対する外務省の“反論”/外務省職員の犯罪を記す理由/誰かが指摘しないかぎり、過ちは必ず繰り返される/エージェントに暴言を吐いた首席事務官の実名/外務省幹部へ 公の場で徹底的に議論しようではないか/外務省職員「預金残高7000万円」はザラ/非課税・精算必要ナシ=「在勤手当」のおいしい仕組み/給料とは別に1人あたり800万円超を支給!/在ロシア日本大使館の組織犯罪「ルーブル委員会」 国益を毀損している外務官僚と差し違える覚悟で書く
3 対マスコミ謀略工作
底なし沼の底なき底まで、共に沈もう/外務省内「腐敗分子」=幹部30名の徹底的な除去を/外務省が「必ず削除せよ」と命じてきた箇所/書評にまでクレームをつけてきた/特定政治家に情報を横流し/外務省に5〜6回接待されたら「情報提供者」に昇格/外務省の具体的な「対マスコミ」工作/外務省「与党」記者は出世させ、「野党」記者は潰す
4 私が手を染めた「白紙領収書」作り
筆者への警告/本当に筆者を止めたいのなら削除や寄稿禁止を命じればよい/「東郷さん。切腹ではなく、打ち首を望んでいるんだね」/「鈴木宗男田中真紀子」対決を煽った真犯人/鈴木宗男代議士に飲食費や遊興費をつけ回した外務官僚は/機密費を使った記者の接待はすべて外務省に記録されている/外務省得意の言い訳「事実は確認されていない」/記者は「弱味を握られたら最後」/若手外交官からのエール
5 「沖縄密約」最後の封印を解く
外務官僚の不作為により人が死ぬ現実/トラブルは政治家に押しつけて責任逃れ/外務省がきわめて神経質になる「沖縄密約問題」/「真実」を知る証言者/吉野氏に偽証を促していた外務省/首相以下、政府全体が国民にウソをついていた/密約電報の流出時には辞職を覚悟していた/優秀な外務官僚は政治家を使いこなす/「400万ドル」の裏で「3億2000万ドル」が消えた/「核の撤去費用」はなぜ盛り込まれたか/国民に嘘をつく国家は滅びる
6 沖縄密約――日本を奇妙な国家にした原点
「記述されない歴史」の重要性/「西山記者事件」が持つ意味/沖縄返還協定から、日本の安全保障は変質を遂げた/沖縄密約は「佐藤4選」のために進められた/隠された対米巨大支払い=3億2000万ドルの内訳/「自分は本当のことは喋らない」と刑事に納得させた/権力に誘導されていく恐ろしさ/国益ではなく、結局は「自分たちを守るため」/吉野文六氏の失脚を狙う勢力が存在した?
7 日本外交「再生」への提言
倫理に時効はない/挑戦状はしかと受け取った/西田恒夫外務審議官「オフレコ懇談」について問う/安倍晋三総理は“コーマン”だったか/鈴木宗男氏を政界から一時的に葬り去った功労者/西田氏の得意技=マスコミへの飲食費つけ回し/「1億円を超える所得が非課税」だから特権意識を抱く/人事を逆手にとった外務省改革案/筆者を反面教師にせよ
特別付録①
杉山晋輔外務審議官の思い出
特別付録②
杉山晋輔外務審議官の罪状

週刊誌のスキャンダル隠蔽のために/東郷氏が口にした「取引」/反日デモを招いた張本人/外務省の情報統制/「詫び状」がいつのまにか「圧力」に/女性家庭教師と昼も夜も/必ず1000ドル渡す理由/便宜供与のいい加減ぶり/大使館の「政治部長」/警察幹部の耳打ち/「アメリカンスクール」の中枢にある腐敗/知りすぎてしまったよそ者は
本書に登場した主な外務省官僚のみなさまと鈴木宗男さん
おわりに

血流がすべて解決する - 堀江昭佳


本書は献本サイト「レビュープラス」様から献本頂きました。

著者の堀江昭佳(ほりえ・あきよし)氏は、出雲大社の表参道で90年続く漢方薬局に勤める薬剤師である。この薬局、予約が取れないことで有名だそうである。それほどの人気を呼ぶ理由はなんだろうと思いながら本書を読んでみて納得した。

こと血液の流れに関して言えば、血が「サラサラ」であるかどうか。われわれはそればかり気にしがちである。やれ納豆がいい、やれ青魚がいい、やれEPAがと薦められるままにそうした食品へと飛びついてしまう。ところが、著者によれば、血流の問題はもっと奥が深いという。

どういうことか。血流に問題がある場合、その人が陥っている状態は3つ考えられるというのだ。

①血がつくれない
②血が足りない
③血が流れない

それぞれに番号がついているのは、症状が階層状になっているからだ。血流に問題を抱えている人は、①、②、③の順に課題をクリアしていかなければならない。
よく耳にする「血液がサラサラかどうか」(=③)という課題は、①、②をクリアして初めて対処すべき事柄なのだ。つまり、「①血がつくれない」人、「②血が足りない」人は、いくら血液をサラサラにしてもあまり意味がないということだ。この場合、目指すべきなのは「血液サラサラ」ではなく「血液たっぷり」なのだ。

3つの状態は、漢方では「体質」として定義されている。

①血がつくれない → 「気虚体質」。
②血が足りない → 「血虚体質」。
③血が流れない → 「気滞 瘀血体質」。

自分はどの体質に当てはまるのか、本書には体質ごとにチェックリストがついている。
  • 気虚体質」 → 「疲れやすい」「風邪をひきやすい」など
  • 血虚体質」 → 「動悸がする」「爪が薄い、割れやすい」など
  • 気滞 瘀血体質」 → 「口の中に苦い味がする」「下痢と便秘を繰り返す」など

いちど自分の体質が判ってしまえば、あとはそれぞれの改善方法が本書で細かく説明されているので、それに従って取り組んでいけばいい。実に実用的な内容の本となっている。


また、血流の改善には四か月を見て欲しいと著者は言う。
理由は二つ。一つは赤血球の寿命。赤血球が骨髄で生まれ、脾臓で壊されるまで百二十日かかる。つまりすべての血液が生まれ変わるのに「四か月」が必要であるということだ。
もう一つは女性特有の事柄で、卵子のサイクル。「子宮は血の海」というように、女性の血は子宮・卵巣の働きに象徴される。つまり、「生理の状態がよくないと血流の状態がよいとは」言えないのだ。「この生理のリズムのもととなる卵子が準備されるのに約四か月かかる」のである。
この2つの理由により血液が本当に改善したのかどうかが判明するまでに少なくとも四か月かかるという。言われてみると至極当然のことであり、なるほどと思うことだろう。

ここでもう少しデリケートな話題として、そもそも血が足りなくなるのは男性よりも女性の方が圧倒的に多い、と言う話を。

これは生理という形で毎月血液を失っているからです。生理で流す血液量をあなどってはなりません。一回の経血量は約一〇〇ml、一年で一・二Lにもなります。初潮から閉経まで四十年とすると、恐ろしいことに女性は一生で約五〇Lもの血液を失うことになるのです。日本人女性の平均体重が五二kgですから、ひと一人まるごとくらいの膨大な量です。これに、出産や授乳を加えると失われる血液量はさらに増えます。

最後に漢方薬局で治療を受けた患者さんのエピソードを。

「この間、同窓会に行ったら『何したの!?』ってものすごい質問責めにあったんですよ〜」
 とうれしそうに言われるRさん。彼女は婦人科系のトラブルを解消しようとして血を増やしていました。決して美容のための努力をしていたわけではなかったのです。
(中略)
 実は、肌、髪、爪の美しさに深くかかわっているのが「血」なのです。

本書には、血液の健康を改善する方法がいろいろと登場する。食餌、食べ方、断食の仕方、呼吸法、おすすめの運動、睡眠の取り方、血流改善に効果のあるツボなど、その内容は具体的で実践的なものばかりだ。

本書は、健康本として、非常に活用のし甲斐のある内容となっている。興味を持たれた方は是非いちど手にとって読んでみて頂ければと思う。

堀江昭佳(ほりえ・あきよし)
漢方薬剤師/不妊カウンセラー/有限会社堀江薬局代表/一般社団法人日本漢方薬膳協会 代表理事
1974年生まれ、出雲市出身。出雲大社参道で90年続く老舗漢方薬局の4代目。
薬学部を卒業後、薬剤師となったのち対症療法中心の西洋医学とは違う、東洋医学・漢方の根本療法に魅力を感じ、方向転換する。本場中国の漢方医から学ぶ中、不妊に悩む友人の相談を受けたところ、漢方で妊娠したことに感動し、婦人科系の分野、なかでも不妊症を専門とするようになる。
体の不調の解消だけではなく、本人の抱えている常識や執着といった束縛からの「心の解放」を終着点としている唯一の漢方薬剤師。
血流を中心にすえた西洋医学漢方医学、心理学の3つの視点からの総合的なアプローチは評判を呼び、自身の薬局で扱ってきた不妊、うつ、ダイエット、自律神経失調症など心と体の悩みは5万件を超える。地元島根はもとより全国、海外からも相談があり1か月先まで予約がいっぱいの状態が続いている。
不妊相談では9割が病院での不妊治療がうまくいかず、来局されるケースであるものの、寄せられる妊娠報告は2015年だけでも155名、2009年以降の累計は614名に上る。
また、日本漢方薬膳協会の代表理事にも就任し、広く漢方薬膳の知識を広め、より多くの女性に幸せと笑顔を届けるために奮闘中。

血流がすべて解決する

血流がすべて解決する

目次
はじめに
第一章
その不調の原因は、
すべて血流にあった

血液サラサラ」にしても血涙はよくならない
血沈は細胞レベルで、あなたの体を変える
血の質と量ほが、「若さ」や「寿命」を決めている
体を生かすも殺すも血流がすべて
女性の力は「血流力」である
鉄不足によって負の感情が生まれてしまう
五万件のカウンセリングが教えてくれた「心と体の本当の関係」
血流を増やせば、心も体もよい状態になる
第二章
「つくる・増やす・流す」で
あなたの血流はよくなる

なぜ、あなたの血流はよくないのか?
体質を変えれば血流はよくなる
血がつくれない「気虚体質」のひとは疲れやすく、やる気が出ない
血が足りない「血虚体質」のひとは婦人科系のトラブルが多い
血が流れない「気滞 瘀血体質」のひとはストレスに弱くイライラしがち
血流をよくする時間は「四か月」
「つくる・増やす・流す」の順番を必ず守る
たった四か月で心も体も変身する
第三章
血をしっかりつくるための食べ方
10の真実

一日のリズムで体質はつくられる
[1]満腹より空腹がいい
[2]やっぱり朝ごはんは食べなさい
[3]「一週間夕食断食」で胃腸がよみがえる
[4]夕食断食をすると、内側から若返る
[5]パン食よりもごはん食がいい
[6]ほうれん草では鉄分を補えない
[7]血流不足にマクロビはすすめない
[8]血を増やしたければ肉食女子になりなさい
[9]下腹ぽっこりは血流の大敵
[10]命への感謝が血をつくる
第四章
元気な血を増やすための眠り方
6つの常識

血を増やすためには、二十三時までに眠るだけでいい
[1]夢を見るのは、血が足りないから
[2]恐れるべき不眠スパイラルから抜け出す
[3]あなたの眠りと血流をつくるのは、朝日
[4]寝る前の「完全呼吸」で睡眠の質を劇的に高める
[5]湯上がりは冷えるから眠りに効く
[6]もしも眠れなくても、自分を責めなくていい
第五章
「静脈」の血流をよくするための生活習慣
5つの方法

女性の血流は静脈が左右する
[1]第二の心臓、ふくらはぎを鍛える
[2]「かんたん丹田呼吸法」でむくみを改善する
[3]足を温めて「冷却システム化」を防ぐ
[4]「三陰交」「血海」を押せば血流の泉がわく
[5]静脈の血流改善こそ、心と体に調和をもたらす
第六章
心と体の悩みは
血流がすべて解決する

血流で一つの悩みを解決すれば、他の悩みも消えていく
《血流で解決1 ダイエット》下半身太りは血流でやせる
《血流で解決2 生理痛》生理痛はないのが正常です
《血流で解決3 子宮内膜症》痛みがない生活が来るとは、思わなかった
《血流で解決4 女性性》血流は自分の女性性を受け入れる力となる
《血流で解決5 更年期障害》誰でも楽に更年期を過ごせるコツ
《血流で解決6 不妊症》妊娠力とは血流である
《血流で解決7 アンチエイジング》コラーゲンは血流でつくられる
《血流で解決8 抜け毛・薄毛》髪は血のあまりである
《血流で解決9 免疫力》免疫力は血流が左右する
第七章
血流をよくすれば、
心は自由になれる

心の安定は血流でもたらされる
「心の力×体の力=実現力」
体の束縛を解けば、心の自由が手に入る
本当の自分を見つけるために、まず血流をよくする
「常識」や「普通」に振り回されない
血流とは、やせをもたらす力である
おわりに
主要参考文献

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考 - 石田章洋


本書は献本サイト「レビュープラス」様から献本頂きました。

著者石田章浩氏はベテランの構成作家である。25年にわたり、あらゆるジャンルのテレビ番組の企画・構成を担当してきた。最近の担当番組は『世界ふしぎ発見!』、『TVチャンピオン』などである。
まず、書名の「インクルージョン思考」とはいったい何なのか。冒頭で石田氏はこう述べる。

インクルージョン思考」とは、「複数の問題を一気に解決する」アイデア、つまり「インクルーシブなアイデア」をつくるための思考法のことです。

これをさらに簡潔にまとめれば、「複数の問題を一気に解決する発想法」ということになるだろう。「そんな夢のような発想法なんてあるの?」と思ってしまう読者もいるかも知れない。具体例を見てみよう。

 それはスペイン内戦(1936-1939)の最中のこと。
 あるとき、フランコ率いる国民戦線軍の一部隊が、共和国軍の勢力に押され、丘のうえの修道院に立てこもらざるを得なくなりました。そのような四面楚歌のなか、さらなるピンチが訪れます。
 国民戦線軍は包囲された仲間を助けるため、食糧や医療品、武器弾薬などを航空機からパラシュートで投下して支援していたのですが、戦いが長引くうちにパラシュートの在庫が底をついてしまったのです。
 陸路は敵に包囲されていて、物資を補給するには空路しかないのですが、もはやパラシュートはありません。航空機から直接、落としてしまえば、物資は粉々になってしまいます。
 ところがそんなとき、たったひとつのアイデアが窮地を救いました。
 なんと、生きた家禽の七面鳥に補給品をくくりつけて、飛行機から投下し始めたのです。
 野生の七面鳥には飛翔能力がありますが、家禽の七面鳥は肉がたくさん取れるように大型化されたため、体が重くて飛ぶことができません。それでも上空から落とすと、なんとか助かろうと必死に翼を羽ばたかせるので、ふわりと着陸に成功するのです。
 しかも「食べられるパラシュート」として、前線の兵士たちのお腹も満たしたというのですから、まさに一石二鳥のアイデアでした。
 なお、この話、ネタかと思って調べたら、なんとスペイン内戦を克明に描いたアントニー・ピーヴァーの『スペイン内戦1936−1939』(みすず書房)にも記されている歴史的事実でした。
 このように、対立する問題を解決するだけでなく、シナジー効果まで生まれ、プラスアルファの結果をもたらすのが、複数の問題を一気に解決するインクルーシブなアイデアです。

どうだろうか。これがインクルーシブなアイデアとして石田氏が注目する事例である。こんな魔法のようなアイデアは、いったいどんな発想法から生み出されるのだろうか。その謎を解き明かしていくのが本書である。

本書は簡単に言ってしまえば発想法の本であり、同種の本は今までにもたくさん書かれてきた。実際に石田氏も本書の中で、ジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』などの類書を紹介している。

一つだけ本書の特長を挙げれば、やはり発想法の解説に、メタ認知の視点を取り入れている点だろう。第6章に出てくる「具体例 → ざっくり一般化 → 具体化」という記述がそれにあたる。

マジックテープが、植物のオナモミからヒントを得て商品化されたのはご存知だろうか。この商品にも、先に挙げた思考プロセスを当てはめることができるのだ。

具体例(オナモミ
      ↓
ざっくり一般化(くっついて、はがせる)
      ↓
具体化(マジックテープ)

たしかに発想のプロセスが3つのステップを踏んでいることが分かる。まず1.「具体例」であるオナモミがある。そこから2.「くっついて、はがせる」へと抽象度を上げ、そしてマジックテープへと3.「具体化」させる。
ハウツー本というのは得てして実用性が高い反面、応用性に欠ける点が弱点になりがちだが、本書はメタ認知の視点を使うことでその弱点から逃れており、その点で異質だと言えよう。

その他にも発想法に関してたくさんのヒントや知見が登場するがそれは実際に本書を手にとって読んで頂ければと思う。

石田章浩(いしだ・あきひろ)
構成作家日本脚本家連盟員、日本放送協会会員。1963年、岡山県生まれ。テレビ朝日アスク放送作家教室講師、市川森一藤本義一記念東京作家大学講師。25年にわたり各キー局のバラエティ番組・情報番組・クイズ番組・報道番組など、あらゆるジャンルのテレビ番組の企画・構成を担当。最近の主な担当番組は『世界ふしぎ発見! (TBS)』『TVチャンピオンテレビ東京)』『情報プレゼンター・とくダネ!(フジテレビ)』『BSフジLIVEプライムニュース』など。手がけた番組の合計視聴率は5万%を超える。構成を手がけた『世界ふしぎ発見!エディ・タウンゼント青コーナーの履歴書』が第45回コロンバス国際フィルム&ビデオ・フェスティバルで優秀作品賞を受賞するなど番組の企画・構成に関して高い評価を受けている。主な著書には『企画は、ひと言。』(日本能率協会マネジメントセンター)、『スルーされない技術』(かんき出版)、共著に『ビジネスエリートは、なぜ落語を聴くのか?』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考

まえかき
インクルージョン思考とは何か
インクルーシブなアイデアは「一石三鳥」
こうしてあなたもインクルーション体質に

Chapter1
イデアとは、
複数の問題を解決するもの

そもそもアイデアつて何?
任天堂が『ドンキーゴング』を大ヒットに導けた理由
トレードオフの問題も両方とも解決できる
「予算はないが、おもしろい番組をつくれ!」
全米が笑った『英会話体操 ZUIIKIN'ENGLISH』とは?
複数の問題が一気に片づいた!
インクルーション思考は0・1秒でひらめく

Chapter2
インクルーション思考への障害

勘違いだらけのアイデア発想法
「ぶっとんだアイデア」はいらない
「論理的な思考」もいらない
100%新しいアイデアはない
「売れる企画」というのもない
「二匹目のドジョウ」は狙っても釣れない
妥協案は「その場しのぎ」にしかならない
みんなで一緒にアイデアを考えない
「フツー」の人の感覚を持ち続ける
「自分はこうしたい」の発想を捨てる
最後まで絶対に言い訳を考えない
Chapter3
ひらめきを生み出す準備と4つの段階
インクルージョン思考を生むためのプロセス
天才たちが照らすアイデアの地図
問題を忘れたとき、アイデアは浮かぶ
「ひらめき」を実感する難しさ
インクルーシブなアイデアヘの4ステップ
Chapter4
第1段階
高次の目的を決めて旅立つ

「制約」――できないことを確認する
制約だらけのミッションにも解決策はある
「目的」――何のために考えるのか
目的は高次なものでなければならない
高次の目的で被災地を救った「重機プロジェクト」
「期限」――締め切りはアイデアの母
独創的なアイデアは強制的に書くことで浮かぶ
Chapter5
第2段階
目的に従って材料を集める

「情報洪水」のなかでの材料集め
必要な情報が引き寄せられるワケ
インターネットで「あたり」を取れ
集めた情報を整理してはいけない
自分の判断で材料に「色」をつけない
自らの判断はいったん「留保」して掘り下げる
「特定の誰か」は、それをどう受け取るだろ?
ターゲットになりきるだけでひらめく!
たったひとりのためのアイデアが世界に広がる
ターゲットでスタイルをつくった『セサミストリート
ニーズとその理由を探り、見つけていく
自分の情報を棚卸ししておく
Chapter6
第3段階
異なる分野の材料をつなげる

欠けてる部分にぴたりとはまるかけらを探せ!
最適なかけらは異分野に眠っている
オナモミがマジックテープになった「関連づけ」
「ざっくり一般化」して関連づけよう
異質なアイデア同士の結び方
「具体例→ざっくり一般化→具体化」の思考プロセス
「なぞかけ」で思考プロセスを解く
「なぞかけ思考」ではその“構造”“本質”に着目する
関連づける項目は“遠距離恋愛”でなければならない
異分野に秘められた関連性を探せ!
ワーク――なぞかけをやってみましょう!
Chapter7
第4段階
手放して「ひらめき」とともに帰ってくる

「煮詰まった」状況を歓迎しよう
夜明け前が最も暗い
熟成前のアイデアはいったん手放そう
偉人たちも「手放した」からひらめいた
グーグルの“20%ルール”が証明するもの
仕事のためにも空想にふけろう
ぼーっとしているときも脳は働いていた!
ひらめきを生むデフォルト・モード・ネットワークとは?
「手放す」から、無意識の材料と結びつく
すべてはデフォルト・モード・ネットワークのため
『英会話体操』のアイデアも手放して生まれた!
上手に手放すための生活スタイル
あなたもインクルージョン思考で実際にアイデアを生み出そう!
Chapter8
インクルージョン思考を磨く
7つの習慣

宮崎駿にも不遇時代があった
イデアを生み出し続けて巨匠へ
習慣1 好奇心を持ち続けてストックを増やす
習慣2 必ず「日付の入った」メモを取ろう
習慣3 インプットは雑食系を心がける
習慣4 デスク周りは「綺麗に」散らかそう
習慣5 ぼーっとする時間を「意識的に」つくる
習慣6 毎日、誰かを笑顔にしよう!
習慣7 自らを世界の一部だと考える
あとがき
参考文献

Column
1 なぜ複数の問題が同時に起きるのか?
2 インクルーシブなアイデアは周囲を巻き込んでいく
3 フジテレビ低迷の理由はインクルージョン思考不足?
4 異なる物事を関連づける才能のある人
5「緊張の緩和」がアイデアを生み出す!

歯医者の口コミサイト「デンターネット」は信用するな

先日、歯にひどい痛みを感じた。虫歯だ。馴染みの歯医者を持たぬ筆者は、通ったことのない歯医者に走った。

何度かそこに通った。そして無事、問題の虫歯は治った。そこまでは何の問題もなかった。

が、通い続けるうちに気づいてしまった。「この歯医者はダメだ」ということに。

その歯医者の名は「山崎歯科クリニック」という。絶対におすすめしたくない歯医者だ。

この歯医者のなにがダメだったのか。腕が悪いのではない。治療費を水増しするのでもない。では何か。

セコいのである。治療費を搾り取ろうとする意図が透けて見えるのだ。以下、治療の様子が分かる範囲で問題点を箇条書きで列挙する。

  • 10回に満たない通院で4回レントゲンを撮られた
  • 毎回歯の掃除をする
  • 治療費の平均が2,700円である(3割負担)


どうだろうか。筆者は素人なので、これ以上の指摘はできない。ただ単に不信感を持つのみである。あとは読者が判断して欲しい。

さらなる被害者を出さないために一つ忠告をしておきたい。デンターネット http://www.denternet.jp/ を信用してはいけない。

ご存じない方のために説明すると、デンターネットとは歯医者に関する口コミを掲載しているサイトだ。言わば、歯科界の食べログだ。

サイトはランキング制をとっている。1位◯◯歯科医院、2位◯◯クリニックという感じで、街の歯医者を順位づけして掲載している。ランキングは利便性を考え地域ごとに分かれている。東京都(内のランキング)、神奈川県、埼玉県、…という感じだ。

筆者が選んだ山崎歯科クリニックは、埼玉県で10位にランクされている。実際に評判を見てみてほしい → デンターネットのページ

どうだろうか。良い口コミばかり並んでいる。すごく良い歯医者であるという印象を受けるのではないだろうか。しかし騙されてはいけない。無条件で信用すると筆者のように落とし穴に足元をとられる。

歯医者選びは自己責任だ。信頼できるのは自己の判断力だけだ。もし通い始めてから、上に挙げたような不審な処置を受け続けるようなら、すぐに他の歯医者をあたったほうが賢明だろう。少なくとも筆者はそう考える。

Kindle本セール(文春、徳間など)

AmazonKindle 本のポイント還元セール(〜6月2日(木)23時59分)を行なっています。

文藝春秋は50%還元、徳間書店は50%OFFとなっているようです。

これを機に読んでみるのもいいかも知れませんね。

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カラマーゾフの兄弟(その1)

ОТЪ*1 АВТОРА*2

[中山省三郎訳(以下、訳)] 作者より

Посвящается*3 Анне Григорьевне Достоевской*4

[訳] アンナ・グリゴリエヴナ・ドストイエフスカヤにおくる

Истинно*5, истинно говорю*6 вам*7: если*8 пшеничное*9 зерно*10, падши*11 в*12 землю*13, не*14 умрет*15, то*16 останется*17 одно*18; а*19 если умрет, то принесет*20 много*21 плода*22. (Евангелие*23 от Иоанна*24, Глава*25 XII, 24.)

[訳] 誠にまことに汝(なんじ)らに告ぐ、一粒の麦、地に落ちて死なずば、 唯(ただ)一つにて在(あ)りなん、もし死なば、多くの果(み)を結ぶべし。
ヨハネ伝第十二章第二十四節

Начиная*26 жизнеописание*27 героя*28 моего*29, Алексея Федоровича Карамазова*30, нахожусь*31 в*32 некотором*33 недоумении*34.

[訳] この物語の主人公アレクセイ・フョードロヴィッチ・カラマゾフの伝記にとりかかるに当たって、自分は一種の懐疑に陥っている。

А именно*35: хотя*36 я*37 и*38 называю*39 Алексея Федоровича*40 моим*41 героем*42, но*43 однако*44 сам*45 знаю*46, что*47 человек*48 он*49 отнюдь*50 не великий*51, а*52 посему*53 и предвижу*54 неизбежные*55 вопросы*56 в*57 роде*58 таковых*59: чем*60 же*61 замечателен*62 ваш*63 Алексей Федорович*64, что*65 вы*66 выбрали*67 его*68 своим*69 героем*70? Что*71 сделал*72 он*73 такого*74? Кому*75 и*76 чем*77 известен*78? Почему*79 я*80, читатель*81, должен*82 тратить*83 время*84 на*85 изучение*86 фактов*87 его*88 жизни*89?

[訳] すなわち、自分は、このアレクセイ・フョードロヴィッチを主人公と呼んではいるが、しかし彼がけっして偉大な人物でないことは、自分でもよく承知している。したがって、『アレクセイ・フョードロヴィッチをこの物語の主人公に選ばれたのは、何か彼に卓越したところがあってのことなのか?いったいこの男が、どんなことを成し遂げたというのか? 何によって、誰に知られているのか? いかなる理由によって、われわれ読者は、この人間の生涯の事実の研究に時間を費やさなければならないのか?』といったたぐいの質問を受けるにきまっていることは、今のうちからよくわかっている。

*1:ОТЪ:[前置詞] ~から(起点)

*2:АВТОРА(автор の単数生格):[名詞][男性] 著者

*3:Посвящается(посвящать の3人称|単数|現在+後接辞 -ся):[名詞][不完][+対格 +与格] 捧げる

*4:Анне Григорьевне Достоевской(単数|与格):[人名] アンナ・グリゴーリエヴナ・ドストエフスカヤ。ドストエフスキーの二番目の妻。旧姓スニートキナ。1867年2月15日にドストエフスキーと結婚。25歳の年齢差があった。ふたりのあいだにソフィヤ、リュボーフィ、フョードル、アレクセイのニ女ニ男が生まれる。速記者として夫の著者の出版に尽力。夫の没後、ドストエフスキー全集の編集出版にたずさわる。モスクワの歴史博物館にドストエフスキー記念室を設け、のちのドストエフスキー博物館の基礎をつくる。ヤルタで歿。

*5:истинно:[副詞] 本当に

*6:говорю(говорить の1人称|単数|現在):[動詞][不完][+与格] 話す;言う

*7:вам(вы の与格):[代名詞] 君たち;あなた;あなた方

*8:если:[接続詞] もし~ならば;~であるのに対して

*9:пшеничное(пшеничный の単数|中性|対格):[形容詞] 小麦の

*10:зерно(зерно の単数対格):[名詞][中性] イネ科植物の実、植物の実、粒

*11:падши(падать の):[動詞][不完]

*12:в:[前置詞] {対} ~へ(目的地・方向)

*13:землю(земля の単数対格):[名詞][女性] 地球、陸地、地面、土、土地

*14:не:[助詞] ~ではない

*15:умрет(умереть の現在単数3人称):[動詞][完] 死ぬ

*16:то:[接続詞] (副文を受け)そうすれば;それなら

*17:останется(остаться の3人称|単数|現在):[動詞][完] 残る;留まる;余る;置き去りにされる

*18:одно:[副詞] ひとりで・単独で

*19:а:[接続詞] ~だが(対比);ところが~の方は(反意、逆説);そして、では

*20:принесет(принести の3人称|単数|現在):[動詞][完][+対格][+生格] 持ってくる;もたらす;(動物が)生む;生じる

*21:много:[副詞] 多く;大いに;(比較級を伴って)はるかに

*22:плода(плод の単数生格):[名詞][男性] 実;果実;胎児;結果;成果

*23:евангелие:[名詞][中性] 福音書

*24:Иоанна(Иоанн の単数|生格):[名詞][男性] ヨハネ

*25:Глава:[名詞][女性] (書物などの)章

*26:Начиная(начинать の現在分詞):[動詞][不完][+対格] 始める

*27:жизнеописание(жизнеописание の単数対格):[名詞][中性] 伝記

*28:героя(герой の単数|生格):[名詞][男性] 主人公

*29:моего(мой の男性|単数|生格):[代名詞][男性] 私

*30:Алексея Федоровича Карамазова:[人名] アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ

*31:нахожусь(находиться の1人称|単数|現在):[動詞][不完] ある

*32:в:[前置詞] {前} ~で

*33:некотором(некоторый の中性|単数|前置格):[代名詞] ある、多少の

*34:недоумение( неизбежныйの単数|前置格):[名詞][中性] ためらい;不審

*35:а именно:つまり;すなわち

*36:хотя:[接続詞] けれども;とはいえ

*37:я:[代名詞] 私;(一個性としての)自分自身

*38:и:[接続詞] そして;~と~

*39:называю(называть の1人称|単数|現在):[動詞][不完][+対格] 指名する;称する

*40:Алексея Федоровича(単数|対格):アレクセイ・フョードロヴィッチ

*41:моим(мой の男性|単数|造格)

*42:героем(герой の単数|造格)

*43:но:[接続詞] しかし;それでも

*44:однако:[接続詞] しかし;それでも

*45:сам:[代名詞] 自分;自身;ですら、でさえ;そのもの、当の~

*46:знаю(знать の1人称|単数|現在):[動詞][不完][+対格] 知る、知っている

*47:что:[接続詞] ~と(思う、言うなど);~ということ;と同様に;~な程に

*48:человек:[名詞][男性] 人;人間;あるひと;誰か

*49:он(主格):[代名詞] 彼;それ(前出の男性・男性名詞を指す)

*50:отнюдь:[副詞](否定形とともに)少しも...ない

*51:великий:[形容詞] 偉大な

*52:[接続詞] ~だが(対比);ところが~の方は(反意、逆説);そして、では

*53:посему:[接続詞] したがって

*54:предвижу(предвидеть の1人称|単数|現在):[動詞][不完][+対格] 予見する

*55:неизбежные(неизбежный の複数|主格):[形容詞] 不可避の;避けられない

*56:вопросы(вопрос の複数|主格):[名詞][男性] 質問;疑問;問題

*57:в:[前置詞] {前} ~で・に(場所)

*58:роде(род の単数前置格):[名詞][男性] 氏族;一族;家柄;属;種類;(文法)性

*59:таковых(таковой の複数|生格):[代名詞] このような;(三人称人称代名詞と同じ意味で)それ

*60:чем(что の造格):[代名詞] 1.何;どうか;なぜ 2.~するところの(=который) 3.何か(=что-нибудь, что-то)

*61:же:[助詞](同じことを指す)まさに、同じ

*62:замечателен(замечательный の短語尾|男性|単数):[形容詞](ある点で)秀でた、優れた、素晴らしい

*63:ваш:[所有代名詞] 君たちの(もの);あなたの(もの);あなた達の(もの)

*64:Алексей Федорови(単数|主格)

*65:что:(前述)

*66:вы(主格):[代名詞] 君たち;あなた;あなた方

*67:выбрали(выбрать の過去|複数):[動詞][完了][+対格] 選ぶ;(時間を)見計らう;取り出す

*68:его(он の対格):[代名詞] 彼;それ(前出の男性・男性名詞を指す)

*69:своим(свой の男性|単数|造格):[代名詞] 自分の;適する;自家製の;しかるべき;身内のон

*70:героем(герой の単数|造格):[名詞][男性] 英雄;主人公

*71:Что:(前述)

*72:сделал(сделать の過去|男性|単数):[動詞][完][+対格] する

*73:он(主格):[代名詞] 彼;それ(前出の男性・男性名詞を指す)

*74:такого(такой の男性|単数|対格):[代名詞] 1.そのような;このような 2.(形容詞・名詞と共に)たいへんな

*75:Кому(кто の与格):[代名詞] だれ

*76:и:(前述)

*77:чем(что の造格):[代名詞] 1.何;どうか;なぜ 2.~するところの(=который) 3.何か(=что-нибудь, что-то)

*78:известен(известный の短語尾|男性|単数):[形容詞] 有名な;ある;一定の;知られた

*79:Почему:[副詞] なぜ

*80:я:(前述)

*81:читатель:[名詞][男性] 読者;閲覧者

*82:должен:[非人称述語] ~ねばならない;~するはずだ

*83:тратить:[動詞][不完][+対格] 支出する;費やす

*84:время(単数|対格):[名詞][中性] 時間;時刻;期間;季節;(通常複数で)時代;時制

*85:на:[前置詞][+対格] ~の上へ;~へ

*86:изучение(単数|対格):[名詞][中性] 研究

*87:фактов(複数|生格):[名詞][男性] 事実

*88:его(он の生格):[代名詞] 彼

*89:жизни(жизнь の単数|生格):[名詞][女性] 生命、一生、生活

米タイム誌「影響力ある100人」に選ばれた5人の作家

アメリカの週刊誌「タイム」が選んだ2016年の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた作家は5人。以下、各人評をタイム誌から拙訳にて引用する。

  • Lin-Manuel Miranda/リン・マニュエル・ミラン
    Hamilton については今まで多くのことが言われてきているし、このことはきっと周知のことではないかと推測するが、このミュージカルが歴史やリズムや人種、韻律やメロディや情熱を包み込んでしまっていることは実に目の覚めるような事件である。チケットが手に入らないのも無理はない。つまり、誇大広告が至る所にあふれているこの時代においてでさえ、Hamilton は今まで見た中で最高のもの――単に劇場作品の中でという意味ではなく――であると間違いなく言えるからだ。リン・マニュエル・ミランダはこの画期的な名作を着想し、書き上げ、そしてその中で主演を務め、同時代の奇跡的なほどクリエイティブな才能のなかでも最も素晴らしい人物の一人としての地位を強固にした。Alexander Hamilton と同様、ミランダは「偉大さは思いがけない所からやってくる」ことを強烈に思い起こさせる。プエルトリコ人の両親が所有するブロードウェイ・ミュージカルのレコード・コレクションは、ニューヨーク市で育つと好きになるヒップホップと同じぐらい強い影響を氏に与えている。天才にレシピはないが、ミランダが、何か深い感動を与え、全く独創的であるものを創り出すために、奇跡的に掴み、統合し、包み込み、讃えたのは共に共通点のない色々な要素である。このことは理解することができる。ミランダはミュージカルを定義し直し、民主政と呼ばれる驚くべき体験の起源を再認識させてくれる。この人を知り、その楽しげな熱意やきらめきを間近に体験することは、ショーそのものと同じくらい大きな喜びを与えてくれる。ミランダのウィットは、その自然で伝染しやすい魅力によるものでないとしても、人を恐れさせるものであると言えるかもしれない。どういうわけかミランダは、気前がよく協同的で愛すべき存在であるのと同じくらいに、革新的で才知に富む存在である。ミランダとその5年間連れ添っている妻 Vanessa Nada(科学者で弁護士、そう彼女は科学者でもあり弁護士でもあるのだ)の間には1歳の息子がいる。つまり言い換えるなら、この若者は今だ人生の第1幕にいるに過ぎない。われわれは自分たちがミランダのことを鑑賞するすごくラッキーな観客であるとと思うだけでわくわくしてこないだろうか。次の作り話はなんだろうかと心待ちにしながら、頭では Hamilton の約束がこだましている。「それでも私にはまだ成し遂げていないことが数えきれないほど残っている。だが、まあ見ていてくれ、、、見ていてくれ。」(By J.J. Abrams/J・J・エイブラムス - 作家、プロデューサー、ディレクター、直近では『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)
  • Ta-Nehisi Coates/タナハシ・コーツ
    アメリカにおいて、タナハシ・コーツが人を動かさずにはおかない、豊かな思想を持つ表現者であることはここ何年ものあいだ多くの人に知られていた。コーツがタイムリーに書いてきた、人種やこの国の恥ずべき不平等の歴史に関するものは、人の怒りを買いもするが、徹底した調査にもとづいたものであり、必読ものと言える。既に多くの人の目にするところとなっている The Case for Reparations がアトランティック誌に発表されたのが2014年のことだ。そこから新しい読者がコーツに注目し始めることになる。のちにベストセラーとなる二番目の著作が刊行されたのが昨年の夏。以後あらゆる人が「コーツはホンモノだ」と認識するようになったようだ。Between the World and Me。この作品は構成が見事であると同時に深い洞察を含み、議論を呼ばすにはおかない。同書でコーツは、アメリカの持つ人種の複雑さや重荷を、父から息子への愛情を介することで、上手くくぐり抜けている。しかし、同書を古典となさしめ、トニ・モリソンをして「コーツはアメリカの新たなジェームズ・ボールドウィンになるわ」と予告させ、マッカーサー基金をして「コーツは天才である」と言わしめるのは、そのソウルフルな書きぶりである。コーツは National Book Award for best nonfiction を獲得したが、自身は受賞作が最高点だとは考えていない。まだまだ言いたいことがコーツには沢山残されており、そして私たちは皆、それを読むことで以前よりもっと賢くなれるだろう。(By Bryan Stevenson/ブライアン・スティーブンソン - Equal Justice Initiative 設立者)
  • Elena Ferrante/エレナ・フェランテ
    イタリア人作家エレナ・フェランテに関する話で最もよく耳にするのは、その不在性――その仮名と、著者として意図的に世間から退こうとする選択――の話だ。けれど、写真や伝記が、その目ざましい著作よりもフェランテ自身について多くのことを語りかねないと想像することはおかしなことではある。大物 Ann Goldstein により流暢に英語に翻訳された作品は非凡な頭脳の地形図をともに形作る。初期の3つの小説(Troubling LoveDays of AbandonmentThe Lost Daughter)は、ナイフのように鋭く、流れが早く、人をして不安を催さしめる作風である。4作目の小説のナポリの話は、雄大な傑作であり、情熱と怒りが持続する芸術家小説(Künstlerroman)である。作中でエレナとリラは、マッチョな20世紀中葉のナポリで育ち、教育、クラス、リスペクトを求めて戦い、母親、妻、恋人になり、自身のひりひりする友情にそそのかされたり抗ったりする。フェランテはいわく言いがたい破壊活動家である。この家庭向きの人物は、その目覚ましい著作において、仕掛けが派手すぎて無視のできない時限爆弾である。(By Lauren Groff/ローレン・グロフ - Fates and Furies の著者)
  • Marilynne Robinson/マリリン・ロビンソン
    マリリン・ロビンソンの小説やエッセイは、しかつめらしさ一切なしのシリアス路線を貫くことに成功している。諸著はまた敏感に感じとる感性にあふれているばかりでなく厳格な思考をも湛えている。ロビンソンの関心事は、「われわれは如何に生きていくか」という問題や「世界とはわれわれに授けられた贈り物のようなものである」という考え方である――そう考えることでわれわれに求められるのは、自分自身に差し出されているものの存在に気づき、それを吟味し、その良さを知り、その手触りや輪郭を劇的に表現することである。ロビンソンの小説には、感じ取った生の感覚や、登場人物に対する深く変わることのない共感や、その精神生活に対する完全なる理解が数多く含まれている。エッセイにおいては、そこでは探求の精神が顔を覗かせているのだが、ロビンソンは信念や伝統それから、神と精神と言葉の三者間の関係に対して関心を示している。ロビンソンはまたきっぱりと出来る限り知性的であろうとしているが、それだけにとどまらず、暗示に富むイメージと印象とを提示しもし、その暗示では、現実的なものだけでなく神秘的なものを、確実なものだけでなく不確かなものまでをも汲み取るのである。(By Colm Tóibín/コルム・トビーン - アイルランド人の小説家、エッセイスト。BrooklynThe Master の著者。ほか著書多数。)
  • Ryan Cooglerライアン・クーグラー
    ライアン・クーグラーの『クリード チャンプを継ぐ男』には或る美しい場面がある。それが捕らえているのは、この若きディレクターが自身の芸術形式や国に対して目標として掲げているものである。ボクサーであり主人公でもあるドニー(Michael B. Jordan)は、グレーのスウェットを着て、病気のトレーナーであるロッキー・バルボアシルヴェスター・スタローン)に会いに行こうと疾走している。ダートバイクや四輪バギーに乗った近所のちびっ子の群れが、ギリシア唱歌舞団のごとくそのドニーの後を追う。ドニーがスピードを上げると同時にバックグラウンドでミーク・ミルの『Lord Knows』が鳴り響く。全力疾走の極みに達したドニーが苦痛と喜びに叫び声を上げると同時に、ミークが、穏やかなピアノとビッグホーンと意気揚々としたボーカルへ移行する。時間がスローになり、不良少年合唱歌舞団がドニーを取り囲むと、われわれの眼は、一人の、中空に左手を伸ばしながらウィリーで飛び跳ねる少年へと惹きつけられる。アカデミーが目にすることのできない全ての美しさがこのワンシーンに含まれている。あの美しさは、否定されることが本当に多いのだが、クーグラー作品のものである。これは、見栄えの綺麗さ――それも一部であるけれど――の問題ではなくむしろ人間味があるように見えるかの問題である。それが「なぜ今ライアン・クーグラーがこれほど求められるのか」という疑問に対する答えである。もとより人間性や美しさなど持ち合わせていないと言われる人々に対して、クーグラーは、最も大きなスクリーンで、人間性と美しさとを与えるのだ。(By Ta-Nehisi Coates/タナハシ・コーツ - ジャーナリスト、作家。直近作は Between the World and Me